喫煙者との共存こそ

渡辺 慎介(放送大学神奈川学習センター所長)

渡辺 慎介
1943年生まれ。横浜国立大学大学院修了。横浜国立大学助教授、教授、副学長を歴任。

松沢知事、まだやるのですか! 思わずそう叫んでしまった。知事の多選ではない。海水浴場の禁煙である。6月4日(09年)付本紙に大きく報道された記事を読んだ感想だ。受動喫煙防止条例に次ぐ、知事のパフォーマンスだろうか。

21日付の本紙社説にもこの問題が取り上げられているが、4日の記事の補足と精神論に終始し、新たな展開は認められない。

受動喫煙の議論では、分煙の効果は期待できないと誰もが主張する。しかし、新技術も開発されている。神奈川科学技術アカデミーの藤嶋昭理事長が発見した酸化チタンの殺菌・消臭効果を利用した喫煙室がそれだ。

JR東海の最新車両N700系新幹線に設置されている。喫煙室の外の通路ではたばこのにおいはまったくない。扉を開けると中に喫煙者がいたが、それでもにおいは気にならない。こうした先端技術の活用も視野に入れるべきだろう。

「知事は『利用者のマナーに委ねられる部分が大きく、砂浜での歩きたばこや吸い殻のポイ捨ては多い』と、モラル頼みでは限界があることを指摘する」(本紙記事)。

ここでは、テーブルマナーのように、習慣的動作に関する約束事と理解されるマナーではなく、社会的行動規範としての倫理の意味にマナーが使われている。喫煙が趣味・嗜好の範疇を超え、倫理の問題に格上げ(?)された。

海水浴場の禁煙もよいだろう。しかし、もし禁煙化するなら、知事はマナー不足の県民を非難し、罰則を定める前に、まず海水浴場の随所に喫煙所を設置すればよい。

喫煙が黙認されていた時代と異なり、制限される昨今では、たばこ税は納税者である喫煙者に還元されてしかるべきだろう。

たばこ税で喫煙所を作る、そうした政策転換の表明なしに、喫煙する県民の意識改革のみを要求するのは、どだい無理がある。このままでは、喫煙者と非喫煙者の対立をいっそう煽るだけである。

これまでの知事の発言を突き詰めると、喫煙と受動喫煙は人々の健康を損なう公害、ということになるだろう。

そうであれば、禁煙の呼びかけよりも、たばこの製造・販売禁止が抜本的、かつ万全の公害対策になる。知事は、まずたばこという公害から得られる“不浄な”たばこ税の受領を拒否し、公害撲滅に邁進してはどうだろうか。これこそ、世界に誇る神奈川の先進力として、多くの県民の評価を得ることは請け合いだ。

そうでなければ、喫煙者の健康は自己責任とした上で、最新技術とたばこ税を使い、喫煙者と非喫煙者の共存を模索すべきだろう。

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