増税は「格差社会」を助長

ジェームス三木(脚本家・作家)

ジェームス三木
1935年生まれ。NHK大河ドラマ『独眼竜政宗』『八代将軍吉宗』『葵徳川三代』など、テレビ、映画、舞台に作品多数。

経済的にきつくても、たばこは簡単にやめられない。たばこの増税で一番打撃を受けるのは、低所得者層である。富裕層はあまり困らず、格差社会を推し進める。弱者に対する国家権力の一種の「経済制裁」とさえいえる。悪のイメージがあるところからは、税金を取りやすいということだろう。政権交代直後に増税する意義は大きく、実施するなら、たばこ増税は鳩山政権が行ったと、国民は記憶にとどめるべきだ。責任ある決断だ。
「健康のため」という議論もあるが、それは違っている。増税になると、強いたばこを吸って本数を減らすようになる。軽いたばこが多く発売されて浸透してきたのに、出費を抑えるために強いたばこを少しずつ吸う。これは逆に健康を害するのではないか。そもそも喫煙者は体に悪いことは承知している。
私は30歳を超してたばこを吸い始めた。1日に2箱半程度吸う。特にモノを書くときには、どうしても吸いたくなる。私じゃなくてたばこが書いているんじゃないかと思えるくらい、もはや人生の一部である。なのに、急激に喫煙が悪だと言われ始めた。ドラマや芝居では、たばこを吸うシーンがほとんどなくなった。視聴者から苦情が寄せられることが大きな要因だ。脚本家にとってたばこを吸う行為は、ものを考えたり、リラックスしたり、さまざまな心境を表現できる手段である。「間」を取ることもできて、脚本が書きやすい。昔から、たばこは句読点、酒はピリオドという。今の芝居やドラマのテンポが速いのは、「間」が少なくなったからだろう。句読点のない文章、話し方になっているのかもしれない。
何十年もたばこを吸ってきた身にとっては、居心地の悪い世の中になった。年を取った人間は、何かが変わるとついていけなくて、打撃を受ける。増税については、もっと慎重に考えてもらいたい。最後は政府が決めることだが、本当にたばこしかないのか。たばこにはもう十分税金がかかっている。

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