ヒトラーはタバコを吸わない

堤 堯(ジャーナリスト)

堤 堯
1936年生まれ。東京大学法学部卒業。文藝春秋入社。『文藝春秋』編集長、第一編集局長、出版総局長、常務取締役を務める。著書に『昭和の三傑ー憲法9条は「救国のトリック」だった』(集英社インターナショナル)などがある。

「世界で初めて禁煙運動をやったのは誰か、知ってますか?」

訊けば、正確に答えた人はこれまでに出会ったことがない。

「ナチス=ヒトラーですよ」

と教えれば、みんなビックリ。ナチスは国民の健康を理由に、禁煙運動を展開した。金髪・碧眼のアーリア人種を最良の人種とし、これの保存に躍起となった。あげくはユダヤ人600万人をガス室で抹殺した。

実は筆者も3年前、『文藝春秋』(07年10月号)に掲載された養老孟司×山崎正和両氏の対談「変な国・日本の禁煙原理主義」で教えられた。2人の碩学にして愛煙家が、ここを先途と蘊蓄を傾けている。両氏が本書に転載を承諾されたとのことだから(感謝!)味読されたい。

当時、当方はこの対談の重要ポイントに沿って、雑誌『ぺるそーな』に拙文を草した。以下に添削を加えて参考に供したい。

 笑顔のファシズム

 養老 あまり知られていないことですが、実は歴史上、社会的な禁煙運動を初めて行なったのはナチス・ドイツなんです。チャーチルとルーズヴェルトはタバコ飲みでしたが、ヒトラー、ムッソリーニはタバコを吸わなかった。ナチス時代のドイツ医学は、国民の健康維持について、先駆的な業績をいくつも挙げています。癌研究は組織化され、集団検診や患者登録制度の仕組みが確立された。その中で「肺癌の原因はタバコだ」という研究が発表され、禁煙運動が推進された。

健康崇拝は禁煙に止まらない。精神患者の断種、さらには精神病患者や知的障害者の安楽死、最後はユダヤ人撲滅にまでエスカレートした。禁煙が優生学につながってしまったわけです。だから私は日本に「健康増進法」が出来たとき、真っ先にナチズムを連想しました。

 山崎 まさにそうなんです。日本が意図的にファシズムに向かっているとは思いませんが、繰り出される政策はファシズムと大いに通底している。厚労省が推進する「国民健康づくり運動」は、健康は「国民の責務である」とまで書いてある。酒は1日1合程度、1日1万歩歩いて、ストレスのない生活をしろとある。喫煙の害について知識を普及させ、公共の場や職場で分煙を徹底し、禁煙プログラムを普及させるとある。日本中の公的スペースから喫煙所が撤去され始めたのは、四年前にこの法律が施行されてからです。

 養老 そんな生活したらストレスが溜まるに決まっているじゃないですか(笑)…。

四年前といえば、小泉純一郎が政権の座にあった。時の厚労相は柳沢伯夫だ。彼は当方と大学が同期で、クラスは違ったが、『柳沢は勉強は出来るけど常識に欠ける男だ』という評判をよく聞いた。だから後年『女は子供を産む機械だ』などとバカなことを言う。

「予防医学」に名を借り、「健康」を理由に掲げてアレコレの政策をやる政権は、勢い人間の選別・差別に走る。喫煙者を非人間扱いし、弾圧する動きが鳩山政権でも加速している。すでに1箱100円の値上げに踏み切り、さらにこの2月18日、厚労省は飲食店など公共の場所での全面禁煙を打ち出した。首相・鳩山は言う。

「国民のみなさんの御健康をお守りする意味でも、そうさせていただくのは良いことだと思います」

例によって敬語過剰の言葉使いには虫酸が走る。ホンネは40兆円を割った税収見込みの穴埋めだが、「健康」を理由にするところがアブナイ。笑顔のファシズムだ。

 何の科学的根拠もない

タバコの包装には「喫煙の害」が明記されている。これには何の科学的根拠もない、と養老さんは言う。

養老 たとえば「タバコの害は医学的に証明された」と言いますが、この「医学的に証明された」がクセモノで、実際のところ、証明なんて言うのもおこがましい。私はいつも言うんですが、「肺癌の原因がタバコである」と医学的に証明できたらノーベル賞ものですよ。癌というのは細胞が突然変異を起し、増殖が止まらなくなる病気でしょう。暴走が起きるか起きないかは、遺伝子が関わっている。つまり根本的には遺伝的な病なんです。タバコを吸っても肺癌にならない、逆に吸わなくても肺癌になる人がいる…。

手許のタバコの包装に次のような注意書きが刷られている。

「煙は肺癌の原因の一つとなり、心筋梗塞、脳卒中の危険性や肺気腫を悪化させる危険性を高めます」

これについて養老さんは言う。

ー─曖昧な文言です。実はあの注意書きを決めた1人が東大の後輩なんですが、医者仲間で集まったときに「根拠は何だ」「因果関係は立証されているのか」と彼を問い詰めたらタジタジでしたよ…。

タバコを吸わないのに肺癌で死んだ知人は枚挙にいとまない。当方などは20歳のときから喫煙を続け、睡眠と飲食の時を除いて、ほとんど四六時中、パイプを咥えている。タバコが肺癌の原因とすれば、とっくにこの世にサヨナラしていなければならない。

横山大観も梅原龍三郎も、1日100本の煙草を吸いながら、共に90歳を超える長寿を全うした。映画監督・市川昆は、四六時中両切りのピースを咥えていたが、95歳まで生きた。これらを何と説明するか。

08年、厚労省健康局は健康増進法に関する有識者検討委員会を設置した。委員の1人に望月友美子なる女性がいる。国立がんセンター研究所の「たばこ政策研究プロジェクトリーダー」だそうな。彼女は言う。

ー─実効性を担保するためにも、罰則があるに越したことはないが、それは次のステップだ。国民には全面禁煙が一番と分かっていても、まだ分煙でいいじゃないかという意識がある。しかし、今回の通知が国民の意識を加速させると考えており、早ければ1年から3年で完全禁煙が実現することも考えられる…。

この女は「国民」の名を騙って、自分流の理屈を押しつける。そもそもこの「検討委員会」なるものがクセモノだ。かつて委員になった山崎正和氏が体験談を語っている。会議の冒頭、医療局長がタバコの害悪は自明の理であり、この検討会では21世紀に向けて禁煙を推進する具体策を諮問すると宣言した。これでは何のために愛煙家の山崎氏を呼んだのかわからない。

山崎 こんな風に結論が予定されている会議は初めてでした。しかも驚いたのは、反喫煙の根拠になっている調査の原資料の開示を要求すると、座長が「この資料は反喫煙論者にしか見せません」と言う。まさに正体見えたりです。あれは元国立癌センター疫学部長の平山雄氏の30年にわたる研究に基づくものとされている。でも原資料は見せないんです。

養老 平山さんは世界で初めて「受動喫煙の害」を指摘した人ですが、彼の疫学調査にはその後、多くの疑問が寄せられています。中でも彼が主張した、いわゆる「副流煙の危険性」は問題外です。喫煙者本人が吸い込む煙よりも、周囲の人が吸い込む煙のほうが有害だという説ですが、科学的根拠はないのです…。

「受動喫煙」については、以前からおかしいと思っていたが、これで分かった。酔っ払い運転は人を殺すが、「副流煙」は人を殺さない。アブナイというなら、よほど酒のほうがアブナイ。ちなみにわが家の居間の白い壁紙は、当方が吐き出す煙草のヤニで茶色に変色している。なのに、40年を超えて同居する家人はいまだにピンシャンしている。受動喫煙の害がホントなら、とうの昔にサヨナラしているはずだ。

この平山某といい、望月某女といい、ともに国立癌センターの所属だ。どうやらここがタバコ有害説の発信元らしい。患者の命を救えなかった罪障感が、ことさら「自説」を増幅させているのではないか。

 紫煙は思索を誘う

タバコが悪いというなら、紙がいけないのかもしれない。紙に沁み込ませた薬品が害をなす? かつて当方は1日に3箱、60本を吸った。ある日、咳が出て止まらない。咳は3ヶ月続いた。いよいよ肺癌かなと思ったが、紙巻を葉巻とパイプに変えたところ、1週間で咳は止まった。

以来、喫煙コーナーに行くと、たしかに一瞬イヤな匂いがする。紙が原因ではないか。JT(日本タバコ)はあの匂いを消す工夫をしてくれ。タバコそのものがイヤな匂いを発するわけがない。当方がパイプを咥えていると、「いい匂いですねえ」とよく言われる。いつであったかパーティの席上、石原都知事が近寄って来て、

「堤さん、いい匂いですねえ。葉っぱは何を使っているの? ボクもウチではパイプなんだ」

タバコはコロンブスがアメリカから持ち帰った。インディアンが数千年も吸い続けたものが「健康」に悪いわけがない。チャーチルは1週間に100本の葉巻を吸った。愛用したダンヒルのチャーチル・サイズは、およそ15センチの太巻きだ。これを1週間に100本吸って91歳まで生きた。彼の母方はアメリカ先住民の血を引いている。DNAがなせる業だったのかもしれない。

昭和の元勲・吉田茂はこのチャーチル・サイズを愛用した。レーニンもスターリンもパイプを愛用した。スターリンのパイプはレーニンの遺品だ。毛沢東も小平もヘビー・スモーカーだった。ヘミングウェイは紙巻を嫌って葉巻を好んだ。

脳ミソの栄養になるのはニコチンと糖分の2つしかないとされている。発明・発見・藝術の多くは紫煙の中から生まれた。たとえばアインシュタインの「相対性理論」も、プッチーニの数あるオペラも、彼らがチェーンスモーカーゆえに生まれた。昨年、イタリアはプッチーニの生家を訪れたおり、ガイドがパイプを咥える当方に向けて、 「プッチーニの死因はタバコの吸いすぎでした」

と言ってニヤリと笑った。因果関係も証明できないのに何を言うか、あれだけの傑作を遺せば本望じゃないか、恩恵を受けているのは誰だい? と言いたかった。三島由紀夫も1日に「光」を2箱吸った。

「ハンフリー・ボガートの登場以来、タバコの吸い方、ダンディズムが難しくなったねえ」

などと当方に語ったセリフが懐かしい。右に名前を挙げた著名な愛煙家たちが昨今の禁煙運動を知れば、「バカも休み休みやれ」と一蹴するだろう。タバコを咥えるとき、人はものを考える。紫煙は思索を誘う。それがイヤだから、タバコを弾圧しようとする?

養老 最近はタバコそのものだけでなく、吸う人自体が「悪者」扱いされるようになった。禁煙運動家や健康至上主義の人々は、非常に権力的ですね。他人に生き方を押し付け、それに快感を覚えるタイプの人が多い。

山崎 タバコに嫌悪感を露わにするのは、かつてヘビー・スモーカーだった人に多い。オレは苦労してやめた、努力しない奴は退治してやろうとなる。

養老 禁煙運動家はタバコを吸いたい欲求に代えて、タバコを取り締まる権力欲に中毒しているといえる(笑)。

山崎 本来タバコというのは何世紀もかけて作り上げられた祝祭的な社交文化でした。葉巻や長煙管の時代から、人々は紫煙を燻らしながら会話を楽しんだ…。

ポロポロ出てくる「不都合な真実」

某出版社の社長はヘビー・スモーカーだったが、何を思ったか突然禁煙に転じ、全社禁煙とした。その社の業績は目に見えて下落した。他にもトップが禁煙に転じて業績を落とした例がある。打ち解けた会話の不足、脳ミソの栄養を断った結果としか思えない。すなわち禁煙運動は「バカの壁」だ。

両氏の対談のあと、文春の編集部員に会ったおり「近ごろ出色の対談だった」と褒めてあげたところ、なんでも抗議が殺到して、とりわけ「禁煙学会」とやらが両氏と公開の対決を望んでいると聞いた。もとより両氏がバカを相手にするはずもない。ミニ・ヒトラーが増えて来た。

目下の世界的な禁煙運動の高まりは、かつて禁酒法を制定したアメリカに発祥する。禁酒法の苦い経験が生きていない。歴史の浅い国だからだ。この国はときおりファナティシズムに走る。アル・ゴア(元副大統領)の「不都合な真実」に始まるエコ運動もその一つだ。

これを経済のグローバリズムと二本立てで輸出した。グローバリズムの正体はすでに見えた。フリーマーケットを強要し、カネのある者だけが得をする世界を目論む。彼らはドルをいくらでも刷れる。ポーカー・ゲームも所詮はカネを多く持つ者が勝つ。

グローバリズムを辞書で引けば「干渉主義」とある。反対語はユニヴァーサリズム(普遍主義)だ。なのにグローバリズムを「地球的規模の普遍主義」と錯覚させて押しつける。禁煙・エコ運動にも「普遍」の鎧を着せた。ところがここへ来て、その「普遍」がボロボロになり始めている。

07年、アル・ゴアはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)と共にノーベル平和賞を授賞した。共に地球温暖化脅威論を提唱した功績による。ところがいまやこの脅威論には深刻な疑義が出ている。

昨年11月、大事件があった。IPCCにデータを提供していた著名な学者のパソコンからデータが流出し、なんと数字の捏造が発覚した。エコが学者のエゴに起因する事実を示した。この「クライメートゲート事件」は、温暖化の脅威を喧伝してきた朝日新聞やNHKにとっては具合が悪い。報じたのは、ほぼ一ヶ月経ってからだ。欧米で大問題となるにおよんで触れざるを得なかった。

さらにIPCCは「ヒマラヤの氷河が2035年までに溶ける」とした予測も間違いなら、「アフリカの農業は20年までに半減する」「アマゾンの熱帯雨林は40%が危機に瀕する」「オランダの国土は温暖化の影響ですでに55%が海抜ゼロ以下になった」…いずれもすべて科学的根拠を欠いた間違いだったと認めた。

ことほど左様に「不都合な真実」がポロポロ出て来ている。いまや欧米では、地球温暖化説に深刻な疑義が巻き起こっている。それを日本の大手マスコミは知らせない。

地球温暖化をめぐる「正統」と「異端」

この2月下旬、注目すべき裁判が東京地裁で始まった。被告は東大総長・浜田純一、原告は名城大元教授・槌田敦。槌田は早くから地球温暖化の犯人が人為的CO2排出にあるとする「定説」に疑義を唱えて来た。  

槌田によれば─気温は太陽黒点の活動や雲の量(水蒸気は熱を貯める)などに左右される、気温が高くなればCO2は増える、CO2が増えるから気温が高くなるわけではない、話は逆だ、いわんやCO2犯人説は間違いだ、とする。

対して「定説」を採る東大が「地球温暖化懐疑論批判」を関連の機関誌に載せ、槌田ら20人の「異端派」を槍玉に挙げ、「積み上げて来た科学理論を無視し、いたずらに世を惑わすもの」と批判した。反論を拒否された槌田らは「学者の社会的名誉を毀損された」として提訴した。地球温暖化をめぐる「正統」と「異端」の論争が、初めて裁判の俎上に乗った。例によって大手マスコミの報道は小さい。某日、小さな勉強会で「異端派」の学者に会った。

「私も〝日本の国賊20人”の中に入っているんですよ」

いまやエコ運動は一種の新興宗教と化している。〝信徒”からの電話や手紙で脅迫や泣き落としが続いている。

「殺してやるぞというのと、頼むからそんなこと(CO2犯人説を否定する)は言わないでくれと懇願するのと2種類ですね。エコには政府から研究費が出る。関連のビジネスも始まっている。それがパーになるのが怖いんですよ」

そもそも地球は温暖化より寒冷化に向かっている、地球は第二氷河期に入っているとする学者も少なくない。しかしそれをいえば村八分となる。産経新聞ワシントン駐在編集特別委員・古森義久氏のレポートによれば、

ー─マサチューセッツ工科大学のリンゼン教授は「学界多数派の温暖化論に疑問を呈すると、産業界のイヌだとか頑迷な反動派だと罵られ、研究資金を奪われるような実例があったため、反対の声はすっかり少なくなっていた」と述べた…。

「90年の罠」にひっかかった日本

しかしいまや欧米では、地球温暖化論に深刻な疑義が巻き起こっている。なのに鳩山首相は09年9月、国連で世界に向けて公約した。

「日本は2020年までに90年対比でCO2・25%削減を目指す」

この数字はトンデモナイ意味を秘めている。早くから地球温暖化に疑義を唱え、エコ運動の虚妄・偽善を批判して来た武田邦彦教授の近著(『CO2・25%削減で日本人の年収は半減する』)によれば、

ー─90年の日本のCO2排出量は11.4億トン。これを8.6億トンにする公約だ。ところが90年以降、排出量は増え続けている。07年は13億トン。経済成長の当然の結果だ。引き続き成長を望めば、CO2は年に約0.78%の増加率で増える。よって20年の予想排出量は14.4億トン。これを8.6億トンに削減するには約40%の削減が必要となる。25%どころではない…。

これを強行すれば、国民に塗炭の苦しみを強いることになる。日本はすでに省エネで世界のトップを走る。ダイエットに喩えれば、体重を最も絞っている。さらに40%を絞れというのは、ガリガリに痩せろ、いや、拒食症で死ね、即身仏になれというにひとしい。

日本の排出量は世界の4%。日本がいかにダイエットに努めようが、大勢に影響ない。なのに自ら求めて「90年の罠」にひっかかった。90年を基準年に取り「チームマイナス6%」などと浮かれた。

他のデブ大国はどうか。さきのCOP15(ストックホルム)でも、中国は「途上国」を自称し、他の途上国の音頭を取って参加しない。アメリカは調印したが批准しない。この2国で世界の排出量の40%を占める。カナダも不参加。ロシアにいたっては36%の排出権の余裕を得た。イギリスはすでに排出権市場で大儲けしている。

さきの勉強会でこんな発言があった。

「京都議定書のおり、イギリスの高官がカーボン・マネーを提示した。ドルやユーロに対抗して、通貨の基礎をカーボン(炭素)に置こうというわけです。いかにもイギリスらしい策略ですなあ」

前記の「40%」を実現するには、武田教授の試算によれば、20年までに65兆円の費用が見込まれる、ならばロシアから毎年1兆円で排出権を買え、と教授はいう。もとよりこれは皮肉な反語だ。日本は本来、何もする必要はない。「日本並みの省エネをやったら話に乗るよ」と鷹揚に構えていればよろしい。なのに「マイナス6%」を公約したばかりに、毎年2兆円に近いカネを排出権市場に支払っている。不確かな議論に踊らされ、国民の血税を他国に貢いでいる。企業なら、こんな役員は背任罪に問われる。いわんや65兆円とは!

さきのCOP15でも事件が起こった。地元デンマークの担当大臣(女性)がヨーロッパやアメリカに有利な「合意原案」を事前に作成して、それがバレて辞任した。ことほど左様に世界は腹黒い。国際会議は狐狸の騙し合いだ。アホな「友愛」が「地球を救え」と出て行くから、このような次第となる。

エコ運動と禁煙運動は通低する

武田教授は言う。むしろ地球は冷えつつある。だから「将来に備えていまこそCO2を出すべきだ」と。チーム鳩山にすれば「暴論」であろう。しかしこちらの「暴論」のほうが、よほど説得力を持つ。

エコ運動と禁煙運動には通低するものがある。ともに不確かな議論を振りかざし、反対する者を弾圧する。あげくはカネを毟り取る。現にエコ運動の主導者ゴアの「不都合な真実」の半分はタバコ撲滅論を展開する。  

養老 ゴア家はタバコ農園を経営していたんですが、喫煙者のお姉さんが肺癌で亡くなる。ゴア家はタバコ農業をやめ、そればかりか、タバコ産業そのものを断固潰すべしと立ち上がる。タバコは姉の仇というわけです。

 山崎 ベトナム戦争のあと、アメリカを束ねていた愛国心やピューリタン的な道徳が根本から揺らいだ。同性愛も妊娠中絶も、キリスト教以外の信仰も認めなければならない。何か咽喉に引っかかったような感じになった。そこで誰もが一致して反対できる都合のよい「敵」を探し始める。選択肢は2つ。煙草かエイズか。結局は煙草が選択された。なぜならエイズの原因とされていた同性愛を好むのは、ハリウッドスターとか芸術家とか社会の上流層で、タバコを吸うのは中流以下が多かったからです。アメリカ人が大麻に寛容なのも同じ理由からです。そういえばゴアの息子も大麻で逮捕されていますしね(笑)…。

ゴアは大統領選に挫折した。「姉の仇」から「地球を救え」にスライドしてノーベル賞を得た。タバコからCO2へ─その効果には本人もビックリだろう。政治学者ラスウェルは、私憤を公憤に置き換えるところに政治的行動の本質を見た。公憤は興奮に通じる。同じような事情が挫折した数学者・鳩山由紀夫の興奮にも見て取れる。

そのゴアが、このところの「地球温暖化懐疑論」に向けてNYタイムスに論文を寄せ、「小さなミスが環境問題をぼかすのに利用されている」と、自説をあらためて強調した。温暖化論を覆す数字の捏造を「小さなミス」とするところ、政治資金の数字を偽装しながら、「知らなかった。単なる記載ミス」と言い張る誰かに似ている。

アメリカ人は物事を「正か邪」で決めたがる。「賢か愚か」で決めない。戦争をすれば「正か邪」で、無条件降伏を押しつける。南北戦争以来の「伝統」だ。かつて酒は悪だ、いまやタバコは悪だ、さらにCO2は悪だとしてシャニムニ撲滅を図る。さきの学者と勉強会のあとで、こんな会話があった。

「地球の寿命はどこまで来てます?」

「半分です。あと50億年。いずれ新星爆発して消滅します」

「人類が暮していける状態はいつまで?」

「CO2がなくなれば一巻の終わりです。何といってもCO2が生命の源ですから」

「そのCO2を地球を挙げて減らそうとしている。なんだかバカみたいですな」

「権力中毒」からくる喫煙者弾圧か?

ところで鳩山民主党は綱領を持たない。世界の政治史にも珍しい政党だ。綱領は結党の精神・目標を言う。会社でいうなら定款だ。定款を持たない会社は公認されない。銀行はカネを貸さない。そんな政党に票を振り込めと、マスコミは「政権交代」を囃し立てた。民主党の某幹部は言った。

「ウチは選挙集団であって政党じゃありませんから」

政権獲得だけを掲げて集まった烏合の衆・不定形の集団は、勢い独裁者を生む。ヒトラーが好例だ。そういえばナチ党も綱領を持たなかった。すなわち民主党も同じ道を進んでいる? なぜ綱領を持たないのかと訊かれてヒトラーは答えた。

「わが党の綱領はワグナーである」

彼はリヒャルト・ワグナーをことのほか好んだ。ワグナーを聴けばアドレナリンの排出が高まる。フランシス・フォード・コッポラは映画「地獄の黙示録」の戦闘場面で、ワグナーの「ワルキューレの騎行」を高らかに鳴らした。ワグナーは戦争の音楽だ。くらべてモーツアルトは平和の音楽だ。聴いていて心地良い。専門家に言わせれば、彼の音楽が持つ「f分の1」のリズムは、万物を司る宇宙のリズムと共通だそうな。

民主党の独裁者・小沢一郎は心臓を患ってタバコを止めたと聞く。加速する喫煙者弾圧も、養老さんいうところの「権力中毒」から来ているのかもしれない。彼がワグナーやモーツアルトを聴くかどうかは知らない。酔えば八代亜紀の「舟歌」を歌う。怨歌だ。小沢も弁護士を目指して挫折した。怨念から良きものは何も生まれない。パイプや葉巻を吸いながらモーツアルトを聴く、そのような政治家の登場が切に待たれる。

全国の喫煙者は2400万人。確たる理由もなしに白眼視され、あげくカネまで毟り取られる。そろそろ立ち上がるときが来たのではないか。

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