「不良」長寿のすすめ

奥村 康(順天堂大学医学部教授)

奥村 康
1942年生まれ。千葉大学大学院医学研究科修了。スタンフォード大学リサーチフェロー、東京大学医学部講師を経て、順天堂大学医学部免疫学講座教授・同医学部長、日本免疫学会会長。サプレッサーT細胞を発見するなど、免疫学の第一人者。ベルツ賞、高松宮賞、安田医学奨励賞、ISI引用最高栄誉賞、日本医師会医学賞などを受賞。著作に『免疫のはなし』(東京図書)、『免疫ー生体防御のメカニズム』(講談社選書メチエ)、『3日でわかる免疫』(ダイヤモンド社)、『「まじめ」は寿命を縮める「不良」長寿のすすめ』(宝島社新書)、『免疫力を高める特効法101』(主婦と生活社)ほか。

「不良」必ずしも長寿ならず

一昨年、『「不良」長寿のすすめ』という本を出しましたが、「不良」が短命な場合もあるという例もあげておきましょう。昨年は六月の終わりから大変な猛暑で、七、八月の二ヵ月間に千葉県内のゴルフ場で三十人くらい亡くなっているんです。救急医学会が調べたところ、その八割方が「前夜に深酒」なんですね。午前二、三時まで飲んで、暑い中ゴルフ場に出れば確実に脱水を起こす。年齢は四十五〜五十歳あたりで、六十歳以上の人はいない。というのは、年寄りは無理をしませんが、若い人はたぶん賭けてやっているから、がんばってしまう。

だから、お酒はせいぜい十二時までにして、どうしても飲まないといけないときは、とにかく水を飲むこと。そうすれば血が濃くなりすぎず、脳梗塞や心臓病を起こす危険はうんと下がります。トイレに起きるのが嫌だからと、水を控えるのが一番よくない。人の死因の二〇〜三〇%は、脳梗塞などのアクシデンタルな要因なんです。

たとえば有名な元野球選手が倒れたときは、治療まで三時間以上かかってしまったといわれております。治療にはゴールデンタイムというのがあって、脳梗塞は発病から三時間以内ならかなり積極的な治療もできる。オシムさんは自宅の浦安から順天堂に運び込まれ、三時間以内に治療が開始できたおかげか、見事に回復されましたね。

ですから、六十歳を越えたら、そばに電話のできる人間を置いておくこと。その人は籍が入っているかどうかは、どうだっていい(笑)。それと、日頃から救急体制の整った病院を調べておけば万全です。そうすれば救急車は迷わず一発で行けますし、無線で患者の症状をやり取りして、運ぶ間に病院は専門医を揃えられる。病院というのは本来、救急体制が充実しているかどうかが一番大事なんですね。

娘というのは、父親そのもの

専門外のトピックをもう一つ。動物の世界では、オスがメスの許しなしにセックスすることはありません。ヒトだけはちょっと例外的ですが、基本的にはメスがオスを選ぶ。ではメスは何を基準に選んでいるのか、それがずっとわからなかった。

性染色体というのは、個体の性を決定する染色体です。お母さんのXに、お父さんのXがくっつけばメス(XX)、Yがくっつけばオス(XY)が生まれる。従来、メスのXXは、母と父のXが半々で発現するとされてきたんですが、最新の遺伝子解析によると、父のXだけが生きていて、母のXは父のXに消されて発現しない。すなわちメスというのは親父そのものなんですね。だから本来、親父が一緒にいて一番居心地がいい女性は娘なんです。

性染色体がかかわるのは、においや味の好みなどで、いわば動物の本能的な部分で似通っている。それ以外の染色体がかかわる髪の毛、顔の色、鼻の高さなどは、父母を混ぜた形で出てくる。

オスというのは、社会性をもつ生き物ですから、娘は親父からその社会性も受け継ぎます。だから小学校くらいまでは、知能指数を調べると、女の子のほうが高い。男はナイーブで女の子より低い、女のほうが利口なんです。小児喘息や自閉症なども、ナイーブな男の子に多く、女の子は少ない。

で、放っておくとメスは親父と近いようなオスを連れてくるんです。どこか親父と共通点があって、なおかつ親父よりちょっと優秀なやつを選ぶ。そして親父よりも少しいい子供を産む。これが進化の原則。親父よりダメなやつとばかりセックスしていると、その種が滅んでしまう。親父の遺伝子というのは進化上、重要な役割を果たしているんですね。

こうした知見は、DNA解析だけでは説明できない、DNAの次のステップの遺伝学として、エピジェネティクス(epigenetics)と呼ばれています。

不老のサイエンス、長寿のサイエンス

「不老長寿」というのは、東アジア独特の言葉でして、中国、朝鮮、日本くらいしか使いません。アメリカでは不老=アンチエイジング、すなわち歳に逆らうこと。不老と長寿が別なんですね。

今、世界中の学者を呼んできて長生き競争をやるとすると、まずからだに入れるエネルギーを少なくして代謝を減らし、体温を下げ、微量の栄養を与えながら冬眠させてしまう。そうすると計算上は百五十歳まではいくだろうといわれている。それが長寿=ロングライフのサイエンスです。

一方、アンチエイジングは、三十歳を二十歳に、七十歳を三十歳に返そうというサイエンス。これは時にロングライフと一致せず、若返るけれど寿命は短くなるということも多い。そのアンチエイジングとロングライフのサイエンスをなんとか一致させようというのが、私たち生命科学者の試みでもある。

歴史的にアンチエイジングの試みは、ホルモン療法です。これは最初、女性の更年期障害の治療だった。高齢の女性に大量の女性ホルモンを与えると、もう一度生理が来たり、シミが減ったり、ぐんと若返る。

しかし女性ホルモンを使うと、乳ガンになる確率が百倍も上がる。だから日本では一部の治療目的以外は許可していない。アメリカでは「私は命が短くてもいいから彼氏を引き留めたい」というような方がたくさんいらっしゃるようで、無制限に女性ホルモンを出す。ドーピングに近いですね。

最近注目されているのが成長ホルモンです。こちらは副作用があまりない。脳の真ん中の脳下垂体でできるホルモンで、この出来が悪いと、小人症といって子供が大きくならない。それを防ぐため、早期に異常を見つけて、成長ホルモン薬を与えると背が伸びる。

実はこのホルモン、大人になっても大事で、年を取るのを止めているということがわかってきた。たとえばガンなどの治療で、四十歳の人の脳下垂体を取ると、白内障になるは、髪はなくなってしまうは、一気に浦島太郎になる。数年前に行われた実験で、七十〜七十五歳の男性を二つのグループに分け、片方にだけ成長ホルモンを与えたところ、肉体的にも精神的にもぐんぐん若返った。それに加えて運動もさせると、筋肉がついて脂肪が減り、非常に若々しいからだになる。

ホルモンはホルモンを呼び起こすといいまして、成長ホルモンを与えると、βエンドルフィンが出る。これは脳内麻薬ともいわれる、要するにスケベホルモンです。これが七十歳の人にもバンバン出てきて、精神的にも明るくなってギラッと若返るわけです。

アメリカのシニアプロゴルファーなどはほとんどこれを使っている。アメリカの成長ホルモンの使用量は日本の七千倍。実はこれを一番使っているのは畜産業です。アメリカやオーストラリアから来る牛肉、豚肉はすべて成長ホルモンを使っている。これを使うと早く大きくなり、しかも日本の牛みたいに脂の入った病的な肉ではなく、赤々として、軟らかくておいしい。ところが日本の農水省は、使用を許可しないんですね。成長ホルモンを使った輸入肉は売っているのに、おかしな話です。

コレステロールの抑制は危険

さて、「不良長寿」を考えたのは、生命保険会社のあるデータがきっかけでした。一部上場の会社の部長さんが、定年退職して何年生きるかというもので、だいたい七〜八年なんです。ものすごく短い。取締役や社長は長生きだし、部長まで行かなかった人、それから二部上場以下の企業や自営業の人は普通に長生きなんです。考えるに、一部上場会社の部長というのはまじめな日本人の典型なのではないか。そんな話をしたらある企業の人が「部長で辞めるというのは、部長になかなかなれないのを、辞める前に部長にしてやるので、一番真面目で面白くないやつ。それ以外はみんな〝悪い〟やつだ」と。

もう一つ、十年ほど前にフィンランドの調査が話題になりました。フィンランドは年金制度の充実した国で、会社を辞めても何もしないで食っていけるので、健康管理がよくない。アル中や膵臓疾患も多く、寿命も短い。それで厚労省が大学の先生に依頼して一九七四年から十五年がかりで大規模な実験を行った。

生活環境の似ている四十〜四十五歳の男性千二百人を半分に分け、片方は年に二回は健康診断をさせ、酒もたばこも制限し、きちんとした生活リズムと健康状態を保つよう指導した。もう片方は、酒もたばこも食事も一切自由。それを五年やって、十年間の観察期間を置き、十五年後に蓋を開けたら、前者の健康管理グループは六百人中十七人が死んでいた。一方のほったらかしグループは一人も死んでない。

これはまずい、これを知るとますます国民の生活が乱れると、厚労省は情報を隠してしまう。ところが、調査を統括した先生が公開するんです。なぜ健康管理をしたグループのほうだけ何人も死んでいるのか、原因を調べるのが大事だろうと。そしてその指導方法について二つの問題点を指摘した。一つは、コレステロールの数値を徹底的に管理したこと。当時はコレステロールは低いほどいいという観念があった。もう一つは、あまりストイックな生活をさせたために、免疫の働きが弱ったのではないかと。

この二つは、今となると見事に正しい。日本はコレステロールの正常値を二二〇㎎/㎗以下という、ものすごく低いところに設定している。欧米で問題視される基準はだいたい三〇〇以上なんですね。

新聞報道もされましたが(読売新聞二〇一〇年九月八日)、日本脂質栄養学会が行った調査によれば、最も長生きの人たちのコレステロール値は二六〇〜二八〇。しかも通説とは逆に、ここからコレステロール値が低くなればなるほど、病気などによる死亡率が高くなるという結果だった。

コレステロールは肝臓と脳でつくられます。全体の二〇%は脳の細胞でつくられ、脳で使われている。だからコレステロールが低い人は脳の回転が悪いかもしれません。また、すべてのホルモンはコレステロールからできている。セックスに関するホルモンもそうですから、コレステロールが高い人はスケベです。スケベなやつは頭の回転が速く、仕事もできる。それは確実に比例します。

コレステロールは強い血管をつくるのにも大事です。かつて秋田や山形は脳出血の人が多くて、脳外科の医者は手術によく行ったものでした。秋田や山形の人は漬け物ばかり食べて、牛乳や卵はよそに売ってしまって自分は食べない。だから血管が弱く、ちょっとトイレに行くくらいですぐ脳出血を起こしていた。今は牛乳も卵もよく食べるようになって、脳出血は減リました。

医者に行くと、二二〇以上で異常だといってコレステロール降下薬を飲まされる。すると、まずいことに鬱になるんですね。非常に多弁だった人が無口になったりする。そういう人が電車に飛び込むんだという話をしていたら、実際に帝京大学の精神科の先生とJR東日本が協力して、JR中央線で自殺した人を調べたんです。その結果、九割が五十五〜六十歳で、ほとんどが男だった。それが見事に全員、コレステロール降下薬を飲んでいたという。

コレステロール降下薬の年間売り上げは三千〜四千億円ともいわれている。その七割は女性が飲まされている。女性は閉経後に必ずコレステロールが上がるからです。もしコレステロール降下薬を処方されても、安易に従わず、捨ててしまうようお勤めします。

たばこ=肺ガン説のウソ

なぜ、たばこをじゃんじゃん吸っていたグループが一人も死ななかったのか。僕は大学院のときに、病理学の先輩とたばこが肺ガンを引き起こすというので、ある実験をさせられました。ラットをたくさん飼って、当時一番安かった「しんせい」というたばこを使って、煙づけにしてガンをつくろうとしたんですけど、結局一つもできなかった。それで「たばこを吸ってもガンにならない」という報告を書いたんです。

たばこは、確かに咽頭ガンとは因果関係があって、たばこを吸う人は四十倍、咽頭ガンになりやすい。ただ、咽頭ガンで死ぬ人は年間五千人程度。一方、肺ガンは年間六万五千人以上が死んでいて、その発ガン物質として最も大きいのは自動車の排気ガスです。排気ガスを一〇〇とすれば、たばこは〇・一以下でしょう。その〇・一を狂ったように攻撃していますけれど、本当に肺ガンを減らしたいなら、自動車を止めるしかありません。

しかも肺ガンには、空気を運ぶ管の部分と、空気が入る風船の部分にできる二種類があって、東洋人は管の肺ガンが圧倒的に多い。そこにできるガンはたばことまったく関係ないんです。

一方で、たばこはからだにいい点がいろいろある。たとえば、人の脳の細胞は毎日数十万、数百万という単位で減っていく。といっても問題はなくて、脳細胞はお互いびっしりつながってネットワークを形成している。ある部分がスポンと抜けても、それを迂回したネットワークに回すことができる。物忘れをしても、しばらくして思い出すのは、ほかの回路が働くわけですね。脳に刺激を与えると、この回路がどんどん増えて記憶がよくなる。脳が若返るんです。

そのネットワークづくりを促進するのがニコチンです。だから、たばこを吸うと記憶がよくなるし、たばこを吸う人はボケが少ない。それから、たばこは気管支に悪いというのはウソで、むしろたばこを吸う人は風邪を引きにくい。たばこが適当な刺激になって、免疫が上がっているんです。もっと重要なのは、日本人は年に三万二千人が自殺する。そのうちの二千人くらいを調べたところ、たばこを吸う人が一人もいなかった。たばこは自殺防止にも役立つのではないか。

ある心理学者に聞いたところ、たばこを吸っているときは、いわば頭が「白く」なるという。ずっと同じ刺激のある状態より、ストレスをときどきぽっぽっと解放してやる。リズムをもって生活している人のほうが脳的には健康だというんですね。

こういうことを言うと、今は医学界から放り出される。それはファシズムでしょう。病院の中に吸い殼が一つでもあると、厚労省は病院の格付けを落とすんですよ。たばこを吸っていいタクシーを待たせるだけでも減点なんです。そんなにたばこを遠ざけたいなら、たばこ特区をつくったらどうでしょうか。たばこ好きの人ばかり集めて、そこがいかに長寿かということを示してやればいい。嬉しいことに最近喫煙者専用の喫茶店が出来て大人気だそうです。私はたばこの経験があるような方が安心して付き合えて好きです。

免疫の利口な面、バカな面

健康を保つには、何より免疫力を保つことが大事。ただし、実は免疫にも利口な面とバカな面があるんです。

ウイルスのような小さいものに対しては、免疫は利口です。毎年十一月ごろになると渡り鳥がインフルエンザウイルスをもってきて、それが日本中にばらまかれ、日本人全体がウイルスの攻撃にさらされる。でも翌年三月ごろには、そのウイルスは日本にはいられなくなる。免疫の働きでからだに抗体ができるからです。

人は病気にはならなくても、常にウイルスにさらされては抗体をつくるというのを繰り返している。新型インフルエンザも同様で、一昨年メキシコではたまたま医療設備が悪くて死者が出たけれども、日本のように医療の整った国で人が死ぬような危険性はほとんどない。そうした免疫の仕組みを知らない厚労省の役人や政治家が大騒ぎしてしまった。

昨春の口蹄疫騒ぎも同様。口蹄疫の病原体はピコルナウイルスというヒトの小児麻痺、ポリオに近いウイルスで、いまやポリオというのはワクチンでほとんど駆逐されつつある。そのくらい免疫が有効なんですね。だから四月に宮崎で口蹄疫が発覚したときも、すぐワクチンを打っておけば問題なかったのに、ぐずぐずして拡大してしまった。やっと六月になってワクチンを打ったら、ぴたっと終息した。

畜産集会には、抗体陽性の家畜が出たらその国から畜産物輸出ができないという法律がありますが、あんなのナンセンスですよ。口蹄疫のウイルスなんてたいしたことないんですから、抗体陽性の牛を食べたって何ともないし、治った牛は生かしておいても問題ない。それを何十万頭も殺してしまったわけです。

逆に、相手が大きくなると免疫はバカになって役に立ちません。たとえば結核菌はウイルスの何億倍も大きいので、ワクチンは効かない。

BCGが結核のワクチンだなんていうのは大ウソでして、ツベルクリン陽性でも、結核の人がコホンコホンやっているそばにいれば簡単に飛沫感染してしまう。日本のBCG接種は戦後、占領軍が持ち込んで実験的に接種したことから始まったんですが、当のアメリカはその結果を見て、意味がないと判断したからBCGは一切やっていない。それをなぜ日本でやり続けているかといえば、そこにはお役人の天下り先とかの利権があるのでしょう。

もう一つ、免疫のバカな面はアレルギーです。免疫のメカニズムが変なふうに働くとアレルギーになる。スギ花粉症、アトピー性皮膚炎、リューマチなどいろんな疾患がありますが、ただ、アレルギー疾患で死ぬ人はいない。これもたいした病気じゃないんです。たとえばスギ花粉症というのは、非常に精神・神経状態の影響を受けやすいんですよ。

重罪犯の刑務所の医師に、花粉症はいないだろうと聞いてみたら、「受刑者には少ない。でも看守にはたくさんいます」と。

政治家にも花粉症は少ない。冗談ですが、きっと悪いやつは花粉症なんかなりません。スギ花粉症の季節に、国会中継で鼻水を出してくしゃみをしている代議士はいません。あれはテレビに映るとアドレナリンが出るんです。そうすると鼻水もくしゃみもぴたっと止まってしまう。重罪犯というのも、アドレナリンが出やすい人たちなんです。子供はちょっと小突くとぎゃっと言うでしょう。子供もアドレナリンが出やすいんですね。

気合いが入っていたら、あんなものはぶっとばせるんです。ゴルフでも、ドライバーを打つ最中はくしゃみは出ないでしょう。あれはホルモンがわっと出るんですね。セックスをしている最中も同じ。要するに、人間のからだというのはホルモンで自由自在に操られているという話なんです。

よく笑い、よく遊び、NK活性を上げよう

私たちのからだで一番の心配事といえば、やはりガンでしょう。それは人間が長生きするとどうしても出てくる問題です。ハエや蚊がガンになるというのは聞いたことがありませんが、もしハエを長生きさせたらガンもできるに違いない。ハエの寿命は一〜二週間しかありませんが、ハエにも老化遺伝子がある。この働きを止めると、今の技術ならハエの寿命を一年くらいに延ばすことができる。人間も理論上では三百歳くらいまで生かせるといわれています。

人間のからだでは、一日で一兆個の細胞が生まれています。そのうち六千個がガン細胞です。人間みな等しく、毎日六千個のガン細胞をつくっている。とはいえ、一兆のうちの六千ですから、きわめて少ない。その六千個を体中から隈なく見つけ出して、叩いているのがNK(ナチュラルキラー)細胞です。同じリンパ球でも、T細胞はマクロファージから情報を受け取って初めて作動するのに対し、NK細胞は自ずからガン細胞やウイルスなどを攻撃する。いわば交番のお巡りさんみたいなもので、T細胞やB細胞が軍隊だとすると、軍隊が出動しない平和なときも、お巡りさんはしっかり見張りをして不良を叩いてくれる。

しかし、年を取るとNK細胞は弱くなってくる。お巡りさんが居眠りをする。その隙に不良が徒党を組んで暴力団になる。そこでお巡りさんが目を覚ましても、もう遅い。それがガンなんですね。

NK細胞の活動は、一日のホルモンのリズムに支配されていて、日内変動が大きい。日中は高く、夜寝るときは低くなっている。だから、生活リズムをでたらめにすると活性がドスンと落ちる。長距離トラックの運転手さんなどは、NK活性が低い人が多い。また、ちょっとした精神的なストレスにも弱い。ちょっと憂鬱になったり、悲しいことがあったりするだけで活性が下がる。

動物実験で、子育てをしているメスから子供を取り上げると、NK活性がドンと下がります。その隣に元気な動物を置いておくと、その動物のNK活性も下がってしまう。すなわち、暗い人のそばにいると自分も暗くなる。精神病というのは、うつるのかも知れません。だから明るい人のそばにいるほうがいい。ストレスという言葉は誤解があって、問題なのは悲しいストレスです。ゴルフでOBを打ったってストレスにはならない。それはかえって刺激になってNK活性が上がるんです。

笑うだけでもNK活性は上がるんですよ。テレビ番組で、丹波哲郎さんが笑うとどのくらいNK活性が上がるかという実験をしたことがあります。丹波さんはもうお年でNK活性は低かったんですが、二十分くらいゲラゲラ笑うだけで、ぐんと上がった。

「不良」がなぜNK活性が高いかというと、ストレスを引きずらないからです。不良には親友がいますから、酒を飲んだり、カラオケをやったりしてストレスを解消できる。「不良」というのはなにも「悪い」という意味ではなくて、やんちゃな人ですね。そういう一見些細なことが、われわれの人生にいかに大事かを伝えたくて、『「不良」長寿のすすめ』を書いたんです。

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