私は吸わない。けれど「嫌煙権を振りかざすのはいじめです」
金 美齢(評論家)
- 金 美齢
- 1934年生まれ。早稲田大学大学院博士課程修了。早稲田大学講師などを経て、評論家として新聞、テレビ、雑誌等で活躍。著書に『凛とした生き方』(PHP研究所)、『私は、なぜ日本国民となったのか』(ワック)など多数。
私はたばこを吸いません。だからこそ私が言おうと思うんです。愛煙家たちにたばこ賛成と言わせない今の風潮は、どう考えてもおかしいですよ。
小泉首相が’01年に田中眞紀子を外務大臣に起用したときに、こんなことがありました。世が小泉&眞紀子人気で沸くなか、私は「どう考えてもミスキャストだ。ただの支持率アップのための人事だ」といろんなところで発言したんです。そうしたら、「眞紀子の悪口を言う奴なんか出演させるな」と局に抗議が殺到して、番組のレギュラーを降ろされたんです。今の嫌煙権を巡る議論の横暴さと似ている気がします。
たばこを吸う人には一切主張や弁解が許されなくて、嫌煙権が錦の御旗というか、水戸黄門の印籠みたいになってしまっている。
私がたばこ問題に言及したのは、確か数年前に放送された『たかじんのそこまで言って委員会』(読売テレビ)という大阪の番組でした。桂ざこばさんが「最近の禁煙運動はやりすぎだ」とおっしゃったとき、「私もまったく同意見。喫煙者に対するいじめです」と発言しました。共演者の中には、非喫煙者である私が発言したことで、「よく言ってくれた!」と喜んだかたもいました。いつも勝手に散々自分の意見ばかり言ってるメンバーでも、ことこの問題となると喫煙者ってことで肩身が狭かったのかもしれないね。
最近は、テレビでもたばこの煙の映像が流れなくなった。バラエティ番組はまだしも、ドラマではまず放送されないでしょ。たばこを吸うっていうのは、一部の人間の自然な行動なのに、必然性でなりたっているドラマから、たばこを吸うシーンをすべて消しちゃうなんてのは、不自然を通り越して異常現象ですよ。実際、テレビ局にはいっぱいたばこを吸ってる人がいるのにね。
喫煙は、健康に悪いといえば、確かに悪いでしょう。客観的に考えたって、吸わないほうがいい。おカネだって倹約できるしね。でもね、何だってたくさん摂りすぎたら身体には悪いのよ。私だって大好きなコーヒーを飲みすぎて、しょっちゅうお医者さんに注意されてますよ。
もし喫煙で身体を悪くしたら、それは個人の責任の問題、勝手に壊れればいいんです。私の息子(商社勤務)はヘビースモーカーだけど、私は本数を減らしなさいとは言うけれど、決してやめなさいとは言わないわ。ただ、私よりも先に死ぬことは絶対に許さないからとは言ってますけどね。
結局のところ一番気にくわないのは、日本全体がこっちを向いたから皆そっちを向くっていう雰囲気になっていることです。マスメディアが作ってしまっている世論の流れに対して、NOと言えるチャンスが少なくって、もの言えば即干されてしまうような社会って、やっぱり変だと思います。たとえ功罪いろんなことがあるにせよ、「弱者はかばわなくちゃいけないよ」というバランスを取りながらやってきたのが、これまでの日本の社会でしたよね。今の喫煙者はいじめを受けているとしか思えません。
喫煙っていうのは、長い歴史と文化を伴った人間の嗜好行動じゃないですか。私がたばこ問題で言いたいのは、喫煙はマナーさえ守れば、完全に個人の嗜好の問題だとまず認識しろ、ということですよ。それがある日突然、受動喫煙がどうだ、健康の増進がどうだって騒ぎ出して、嫌煙派が正義ですって嵩にかかってやってきてるじゃないですか。これはおかしいよ。
たばこに反対だと発言したり禁煙運動したりすることはかまいません。それこそが自由な世の中なんだから。けれど、反対にたばこは好きです、吸ったっていいでしょと発言させない風潮、社会の空気が許せない。愛煙家の少数意見の発言舞台が用意されていない現状、これはもうファッショです。
私は長い間台湾の民主化運動にかかわってきました。その体験からいっても、私は一方的にバッシングされる人の味方。今やいじめられる存在である喫煙者の権利をこれからも代弁しますよ。非喫煙者として。
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