税収不足補てん短絡的

黒鉄ヒロシ(漫画家)

黒鉄ヒロシ
1945年生まれ。武蔵野美術大学中退。1968年、『山賊の唄が聞こえる』で漫画家デビュー。1997年、『新選組』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞。第43回文芸春秋漫画家賞受賞。

今回のたばこ増税論議で気になるのは「健康に悪いからやめさせよう」というペナルティー的な発想が透けて見えることです。たばこは合法であり、愛煙家は税金も払っている。本当にたばこが害悪ならば、法律改正の議論から始めなければなりません。

歩きたばこや不始末による火事は、マナーの問題で、たばこ自体の是非とは別次元の話です。喫煙は強制されるものではないのだから、「健康に悪いので、やめてもらうために増税します」というのは国のおせっかいというものです。

増税論議のもう一つの出発点は、不景気で大幅減が見込まれる税収の確保。たばこ税は平成になって3回値上げされましたが、直後は税収が増えるものの、その後は減少傾向をたどっています。これまでの経験から言っても、増税されれば、禁煙者が増え、中長期的に税収が落ち込むのは明らかです。2008年度で2兆1000億円に上るたばこの税収が激減したら、国や地方自治体は大打撃です。

急激な増税は、密輸たばこなど、やみ社会の資金源を増やす恐れもある。現に英国では密輸が増え、取り締まりに多額の出費が生じています。たばこ離れが進めば、葉タバコ生産者へのしわ寄せも懸念されます。

たばこ増税は昨年(08年)、自民党政権でも浮上しました。たばこは庶民から金持ちまで平等に楽しめる嗜好品です。税収不足になると、たばこや酒の税率アップで補おうというのはあまりに短絡的な発想。もし本当に財政が危機的ならば「国家財政支援宝くじ」でも発行して、国民に助けを求めるほうがよっぽどいい。

健康被害にしても、たばこの影響がどの程度あるのか、他に要因はないのか、もっと検証すべきです。愛煙家にすれば喫煙がストレスを解消する効用だってある。ヒステリックに反応せず、喫煙の自己責任を認めて共生していくのが成熟した社会だと思います。

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