[2014年6月20日]
追いつめられる喫煙者 朝日新聞
職場や公共スペースで禁煙や分煙が進んでいます。東京の都心では、吸える場所が限られるために喫煙者が特定の場所に集中し、思わぬ「被害」も起きています。「無煙化」の裏側で何が起きているのでしょうか。
東京・JR市ケ谷駅前の外濠(そとぼり)公園。梅雨の晴れ間の下、スーツ姿のサラリーマンらが、次々に公園内へと吸い寄せられていく。
お目当ては、千代田区が設ける「青空喫煙所」。喫煙者が入れ代わり立ち代わり訪れる。だが、同時に利用できるのは10人程度。指定場所からあふれた人が、公園の入り口付近まで広がって一服する光景が日常になっている。区が2012年に平日の日中の公園利用者を調べたところ、子ども302人に対し、喫煙者は586人だった。
2歳の長女と遊びに来ていた母親(38)は「遊具が充実しているので子どもが来たがる。煙のにおいが不快で、なるべく避けたい場所なんですが」。近くの保育園は「たばこの火や煙が心配で、遠くの公園に足を延ばすこともあります」と話す。
なぜ、たばこを吸いに足を運ぶのか。近くの会社に勤める男性(43)は「職場が完全禁煙になり、街角にも吸える場所が見あたらない。もう行き場がないんですよ」。
公共施設などに受動喫煙対策を定める健康増進法が03年に施行されてから、公共交通機関や企業などでの禁煙が進み、たばこを吸える場所が減っている。
加えて千代田区は、罰則付きの条例で路上での喫煙を禁じている。ただ、対象は公道で、公園は規制の対象外。2年前の調査によると、平日の利用者に占める喫煙者の割合が5割を超えた公園(児童遊園、広場を含む)は、56カ所中11カ所に上った。区安全生活課は「居場所を失った喫煙者が、公園に流れ込んでいるのではないか」と見る。
たばこを吸う人が特定の場所に集中する現象は、公園外でも起きている。
中央区のビジネス街にあるコンビニエンスストア。入り口に置かれた灰皿の周りには、一服する人の姿が絶えない。パソコンを開いて打ち合わせをするサラリーマンのグループもいる。
コンビニが入るビルの上階は単身者用マンションだ。4年前から住む30代の女性は「ベランダの窓も開けられないし、においがつくので洗濯物も外に干せない」。
コンビニ大手各社によると、店頭の灰皿は年々減っている。ローソンは東京23区内の約85%の店舗から灰皿を撤去。少なくなった灰皿に、喫煙者が集中している可能性がある。
一部の人がしわ寄せを受ける現状に、行政はどう対応しようとしているのか。
千代田区は今後、公園での分煙・禁煙化を進める一方で、街角の喫煙所を増やすなど、受け皿の分散化を試みる考えだ。安全生活課は「世界的な流れには逆行するかもしれないが、規制一辺倒では問題を解決できない」と話す。
港区は7月から条例を改正し、独自の受動喫煙対策を進める。
区内24カ所の指定場所を除き、屋外の公共スペースでの喫煙を禁じる。さらに私有地内で吸う場合でも、近くの公園で遊ぶ子どもや公道を通行する人が受動喫煙しないよう、事業者に配慮を義務づける。屋外に喫煙スペースを設ける企業や、店先に灰皿を置くコンビニなどを想定している。違反した場合は行政指導や勧告を実施し、改善しない時は事業者名の公表も検討する。
■消える喫煙席、ファミレスも
不特定多数の人が集う飲食店。居酒屋やレストランが加盟する全国飲食業生活衛生同業組合連合会によると、完全禁煙の店の割合は2003年度に1.3%だったが、12年度には12.8%と増えた。
東京都江東区の個人経営の居酒屋「梅仁」は、4年前から完全禁煙にしている。禁煙前と比べ売り上げが約4割減った月もあったが、「禁煙」を掲げる看板を見て来店する新規客も増えた。現在、売り上げは回復し、禁煙化の経緯を聞きに来る同業者も。店主の菅原勝美さん(65)は「食事をおいしく楽しめると言われるのがうれしい」と話す。
大手チェーンでも取り組みが進む。ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」は、09年から喫煙席の廃止を進め、昨秋、全店舗で喫煙席がなくなった。大手ファミレスチェーンでは初めての試みだ。
同社によれば、喫煙席の廃止で家族連れや女性客の比率が増えた。食事を利用する客の割合も増え、客単価が上がったという。ただ全229店中198店に、独立した「喫煙ルーム」を設けている。