[2014年11月25日]
喫煙で医療費増のデータに「非喫煙者と大差ないはず」の声も-newsポストセブン
近年、ビッグデータをはじめとする統計学が注目されていることもあり、日本人は以前にも増して数字に頼り、数字を見せられるとあたかも真っ当な主張のように錯覚してしまう傾向が強くなった。
だが、統計を導き出すにあたり、様々な前提や仮定条件も加味されるため、算出方法のやり方次第では、結果に大きな開きが出てしまうのも事実である。その代表的な事例が“たばこバッシング”の根拠に用いられる「社会的コスト」である。
<たばこを吸うといろいろな病気にかかり、医療費が膨らむばかりか、火災や清掃など社会全体に与える損失が大きい>
よく、こんな論とともに、「喫煙による超過医療費は1兆3086億円」「喫煙が社会全体に及ぼすコストの総額は7兆円を超える」などの数字が示され、一人歩きすることがある。
こうしてみると、喫煙者はますます肩身の狭い思いをするかもしれないが、この数字にもカラクリは潜んでいる。
まず超過医療費について。1兆3086億円という数字は、1999年に医療経済研究機構の油谷由美子氏が報告したものだが、「仮定を重ねた過大推計」だとの指摘もある。
東海大学医学部非常勤教授の大河喜彦氏がいう。
「これは疫学統計の疾病死亡率から算出しており、疾病罹患と疾病による死亡とが同じ傾向にあるとの仮定に基づいています。
でも、そもそも人間の死亡率は100%であり、自殺や事故、PPK(ピンピンコロリ)を除けば、最終的には喫煙の有無にかかわらず、誰もが死に至る重篤な病気にかかり、医療機関のお世話になるのが必然です。
そう考えると、超過医療費の試算に疫学統計の死亡率を使うことには問題があり、最終的な医療費は喫煙者も非喫煙者も大差がないはずです」
事実、国民健康保険等による医療費全体の実費調査によれば、喫煙者と非喫煙者を直接比較した1983年から2002年までの9つの報告のうち、5つで喫煙経験者のほうが非喫煙者より医療費が少ないという結果が出ている。
次に莫大な金額の「社会的コスト」について見ていこう。これも、前述の“油谷報告”の7兆3645億円という数字が使われているのだが、2010年に再び行われた同じグループの報告では、なぜか4兆3263億円に減少している。その理由は何か。
「喫煙による労働力損失の算出に際して、損失寿命を海外データの12年から国内データの4年に変更したからです。さらに、一人当たりの雇用報酬も512万円から348万円に変更したことが影響しています。
このように、その時々の適当な仮定に基づいて試算するため、過大推計または不適切推計になっている可能性が高い。どの程度の喫煙がどういう影響を及ぼすか、定量的なデータとなっていないのが実態なのです」(前出・大河氏)
しかも、昨今の日本人の喫煙率は21.6%(2013年)まで低下し、10年前と比べて愛煙家の数が約700万人も減っていることを考慮すると、社会コストも年々低下していなければおかしい。7兆円の試算が喫煙者を非難する「材料」としてのみ、いつまでも引用されるのは、実情にも即しておらず問題だといえるのではないか。
中部大学教授の武田邦彦氏は著書『早死にしたくなければ、タバコはやめないほうがいい』(竹書房)の中で、こんなことを書いている。
<タバコを吸うと今までは短命だと言われてきた。短命なら医療費はかからない。長寿になって医療費がかかる。医療費を減らすには、年をとっても健康であるということが前提となり、「タバコを吸ってはいけない」という論理にはならないはずである。
タバコを吸うことで肺がんになり医療費が急増するなどということは、喫煙者へのいわれなき非難ではないかと思う>
これこそ、至極真っ当な主張である。たばこ問題に限らず、一方的なデータで世論が形成されるのは危険だ。数字に踊らされない慎重な判断力を養いたい。